歳をとるのもいいものだ

歳をとるのもいいものだ。こんな嬉しい感慨を覚える映画に出会うことができました。春日井市近郊のニュータウンで、野菜70種類、果物50種類に囲まれて暮らす老夫婦のドキュメンタリー、『人生フルーツ』です。

周りに何もない、まるで砂漠のようなニュータウンの造成地、その一角に300坪の土地を購入して50年。その土地は、雑木林となり、果樹園となり、畑となりました。ここで、まるで農夫のように暮らす主人公は、建築家の津幡修一さんと、妻の英子さん。90歳と87歳のご夫婦です。

食事はもちろん、農作業や大工仕事など、ほとんど他人の手は借りません。その徹底したエコライフに感心したのはもちろんですが、私は津幡さんの仕事との関わりに興味を覚えました。

彼は、日本住宅公団のエース建築士として、いま自らが住む高蔵寺ニュータウンを設計したのでした。可能な限り自然と調和させようとした彼のプランは、公団の合理主義・効率主義とは相入れません。大幅な修正を余儀なくされます。

高蔵寺ニュータウン内の彼らの土地と家は、公団の、というよりは、日本社会の、機械的効率主義への異議申し立てのような気がします。津幡さんは、息をひきとる直前、伊万里市の小さな医療福祉施設の設計を依頼され、はじめて思うような仕事ができた、と述懐するのです。設計料は受け取りませんでした。

「この人は、歳を重ねるごとにいい顔になってきたんですよ」と、英子さんは言います。柔和な表情で遠くを見つめる修一さんの顔は、夢を宿したいい顔です。そんな夫と60年余連れ添った英子さんの顔もまた、チャーミングでいい顔。歳をとるのもいいものだなぁ。ホントにそう思いました。

風が吹けば、枯れ葉が落ちる。
枯れ葉が落ちれば、土が肥える。
土が肥えれば、果物が実る。
こつこつ、ゆっくり。
人生、フルーツ。

樹木希林のナレーションも、また良かった!

2017年11月30日 於いて飯田橋ギンレイホール
監督:伏原健之
編集:奥田繁
撮影:村田敦崇
音楽:村井秀清

2017年12月7日 森淳