夜半、コオロギの涼しい音色に目を覚まし、しばし聴き惚れた。寝室の隣のトイレからである。翌日から毎夜、キュウリの薄切りをトイレの絨毯にだしておくことにした。柔かな部分だけを齧るらしく、その緑の残骸が朝の光に映える。

だが昨夜、鳴声が絶えたので、朝、不審に思って床をみると、コオロギの死骸が転がっていた。なにも外傷はないので自然死であろう。ツツジの根元に埋めてやった。

9.29金融ショック

 深刻化しつつあるアメリカの金融危機に対処するため、ブッシュ政権は、7000億ドル(約75兆円)の公的資金を投入し、金融機関の不良債権・不良資産の買取を行う機関の設立を議会にはかった。だが下院では、ブッシュ政権の与党である共和党を中心に、この法案を否決してしまった。共和党の多数と民主党の一部は、住宅バブル期に巨大な利益をあげた「ウォール街」の救済に、国民の税金を使うことはできない、FRB(連邦準備銀行)の流動資金供給にとどめ、民間相互の救済を待つべきだ、というのがその理由である。その結果、ニューヨーク株式市場で29日、770ドルという史上最大の下落を記録し、30日、日本を含むアジア市場さらにはヨーロッパ市場の株価もいっせいに下落、金融危機は劇的な局面をむかえた。

 90年代のわが国の不動産バブル破裂期にも、まったく同じ理由で世論は猛反対し、主要メディアも「公的資金投入」反対のキャンペーンを張った(当時私はある政策集団の会合で何人かの政治家に公的資金投入の決断を訴えたが)。だが、公的資金投入の遅れは、さらに不良債権の増大をもたらし、結局政府がそれを決断したときは、当初にくらべ一桁違う膨大な資金を投入せざるをえなかったのだ。その結果、いちおうわが国の大金融機関の健全性は回復し、今回の危機にアメリカ金融機関の救済や増資にまで協力する力をもつにいたった。しかし、初期に公的資金投入に反対した多くの国民は、反対によって自分たちの税金を一桁無駄にし、みずからの首を締めたのだ。

 おそらく合衆国も同じ轍を踏むことになるだろう。洋の東西を問わず、政治家たちは、そして国民は、歴史に学ぶことをなぜしないのだろう。

アメリカ合衆国下請け艦隊

 9月30日のNHK総合TVの「クローズアップ現代」で、「いま現場でなにが;海上自衛隊」が放映された。

 知的にひじょうに鋭い切れ味の国谷キャスターがとりしきるこの番組は、しばしば大きな問題提起をするが、この日がそれであった。

 漁師二人が亡くなられたイージス艦あたご(旧海軍の重巡洋艦愛宕は、私は大連港でその威容をまじかに見たが)の漁船衝突事故など、最近海上自衛隊の事故や不祥事が頻発しているが、その背景になにがあるのか、という調査の映像記録である。もちろんNHKらしくその表現は控えめであったが、私の見解を交え、以下に紹介しよう。

 事故多発の根本原因は、任務の拡大と多様化に、訓練や予算あるいは隊員の増強が追いつかないという点にある。

 かつての海上自衛隊は、政府の「専守防衛」方針にもとづき、わが国の領海や沿岸の防衛、またタンカーをはじめとする商船の航路、つまりいわゆるシ-レーンの防衛などが主任務であり、駆逐艦やフリゲート艦程度の小型艦を主力にしていたし、これらの艦の訓練や乗組員の教育はそれほど難しいものではなかった。

 だが小泉政権の成立と、それによる日米同盟の実質的な軍事同盟化は、海上自衛隊の任務と性格を完全に変えてしまった。すなわちそれは西部太平洋やインド洋など広大なアジアの海域に展開するアメリカ海軍の任務の、ある範囲の肩代わりである。いいかえれば海上自衛隊は、アメリカ太平洋艦隊あるいは具体的には横須賀を基地とする第七艦隊の「下請け艦隊」となった。広範囲の空域をレーダーでカヴァーし、大陸間弾道弾などを迎撃できる迎撃ミサイルを積載したイージス艦など、高度のハイテクを真っ先に海上自衛隊に提供したのもそのためである。

 しかしこうしたハイテク装備を自在に動かす訓練はきわめて難しく、そのためには長期にわたるハワイ沖での日米共同訓練が必要である。その帰路、疲れ切った隊員たちを乗せた「あたご」は、日本の近海に入った安堵と油断からあのような大事故を引き起こしたのだ。

 インド洋でのさらなる長期にわたる給油活動は、隊員たちを疲労困憊させる。これらは一例にすぎないが、「下請け艦隊」化による任務の拡大とハイテク的多様化は、隊員たちを追い詰め、心身ともに疲労させる。退職者が急増し、いまや各艦は8割程度の乗員しか確保できないという。それがますます隊員たちに過労を強いる。そのうえ予算不足で、術科学校など隊員の訓練施設の老朽化は目を蔽うほどである。大企業アメリカ海軍の下請け企業、海上自衛隊の悲哀というほかはない。

 海上自衛隊の最高統括者である赤星海上自衛隊幕僚長の短いインタヴューが挿入されていたが、こうした危機的事態の改革のために、海上自衛隊でできることとできないことがある、海上自衛隊でできることは徹底的に行いたいが、後者には国民的議論が必要だ、と述べていた。もちろん明言はしなかった(できなかった)が、激務を強いる「下請け」任務でよいのか、という問いかけであろう。

 私はもちろん、少なくとも「専守防衛」の任務にまで後退すべきだと思うが、軍事予算世界第五位の「軍事大国日本」の、この米国下請け企業としての現実を、憲法第九条擁護派はどう考えるのか、憲法第九条のためにも問いたい。