12月14日、韓国の尹大統領の弾劾決議が可決され、テレビやSNSでは大勢の市民が街頭に繰り出し、ペンライトを掲げて喜びあう姿を映していた。東京では、共同テーブル主催の連続シンポの第1回目「戦禍のなかの平和憲法を考える」がこの日の午後に開催。
そこに登壇した韓国からの発言者、ソウル大学教授で日本研究所所長の南基正さんが、今回の政変に駆けつけた民衆の主流は「若い20代の女性たちだ」というびっくりの話を披露された。12月3日の「非常戒厳令」宣告の夜、南基正さんは国会の場に居たということだ。
韓国では4月、総選挙で野党が多数を占めることができた。これに力を得て、野党は尹政権の下での、不正・腐敗・職権乱用を国会の場でひとつずつ暴き、尹大統領を追い詰めてきた。今回のことは大統領による最後のあがきだった。
尹政権というのは、アンチフェミニスト政権でありマッチョ政権だった。女性家族省が廃止され、女性への暴力を止めさせるための予算は大幅削減をし、政策決定の場の男女の比率の偏りを解消しようと文前政権が導入したクオータ制も「能力に応じて」に代えられた。女子大に男性も入学させようという試みまでされた。これに女性たちは大学の建物に籠城して抵抗したのだが、それを親世代の男性が「このようなことをする女性は私の企業は採用しないし、息子の嫁にもしない」などと述べ、その暴言はSNSでまたたくまに拡散された。
つまり、女性たちはこの2年半、尹政権への怒りを溜めてきていたのだ。だから今回の弾劾行動の主流は20代の女性たちだった。若い女性が大挙して参加したので、若い男性たちも参加した。弾劾集会は若いエネルギーが満ちた場となった。2016年~17年の、パク・クネ大統領の弾劾デモで人々が手にしていた「キャンドル」ではなく、アイドル歌手に声援を送る「応援棒」を持ち、革命歌ではなく、K-POPの人気ダンス曲を彼女たちは歌った。と南基正さんは流ちょうな日本語で語った。
そして最後に、「戦争へと向かう世界の流れを、韓国の民衆は一瞬だが、止めることに成功した。だが、韓国民衆の力だけでは戦争への向かう世界の流れを止めることは難しい。日本と世界の民衆の助けが必要だ」と訴えた。
韓国で1300万人以上、4人に1人が見たという『ソウルの春』が東京の小さな映画館で上映中と友人が教えてくれて、4日前に鑑賞。軍事クーデターで権力の座に着いたチョン・ドゥファンの1979年の一夜を扱い、今回の出来事への映画の影響は大きかったとされる。乱暴なクーデターの成り行きがスピーディにが描かれ、「死ぬ覚悟で国会に行った」という参加者の言葉が、けっして誇張ではないと気づかされる内容だった。
「K-POP」といい『ソウルの春』といい、韓国社会の持つ大衆文化の力、批判力を、日本社会も謙虚に取り入れ、学んでほしいものだ。