ヒゲ: あっという間に梅雨が明けたねぇ。
メガネ: 梅雨のあいだに咲いた花菖蒲は、いつにも増してきれいだった。
ヒゲ: でもその時期は人出が多くて、この公園に来る気はしなかったよ。
メガネ: いまは菖蒲も紫陽花も終わって、睡蓮と蓮が美しい。
ヒゲ: 白い睡蓮の清潔な佇まいもいいし、パステルカラーの蓮の花にもうっとりするね。
メガネ: 今日は午前中に来たから、蓮はきれいに花開いている。午後にはほとんどの花が閉じているんだよ。
メガネ: ところで、参院選も終わったね。
ヒゲ: 予想どおりだったとはいえ、オレはもう言葉はないよ。
メガネ: 国民は、基本的にアベノミクスを引き継ぐ岸田政権を信任した。
ヒゲ: 30年間賃金は上がらず、格差も拡大しているというのに。おまけに防衛費を倍増しようとしている!
メガネ: その話は別の機会にして、ボクは先月、『教育と愛国』という映画を観た。
ヒゲ: 毎日放送の記者が監督した映画だね。
メガネ: そう、斉加尚代(さいかひさよ)さんの作品だよ。
ヒゲ: デンマークのことを紹介してくれた小島ブンゴード孝子さんも、一番大事なことは教育だと言っていたね。
メガネ: デンマークと日本では、教育の方向性がまったく違うということを実感した。
ヒゲ: そうなんだ。
メガネ: 映画では冒頭で、安倍さんの演説が映し出される。第一次安倍政権の時のね。そこで彼は言う。「日本人というアイデンティティを備えた国民をつくる。それには教育の現場を変えなくてはならない」とね。
ヒゲ: その考えのもとに、2006年に教育基本法を改変したのか。
メガネ: そのとおり。「伝統」「公共の精神」という言葉が多用されて、親の責任を強調している。教育の第一義的責任は親にある、とね。
ヒゲ: 親の責任は大事ではないの?
メガネ: ところが、第二義的責任という言葉はないんだよ。国の責任を放棄しているとしか思えない。
ヒゲ: デンマークにも教育に関する法律はあるんだろう?
メガネ: もちろん。国民学校法というらしい。
ヒゲ: その中身は?
メガネ:その法律のなかにも「デンマークの文化に習熟させ」という文言はある。でも「他の文化や人と自然の関係を理解することに貢献するものとする」と続けている。
ヒゲ: なるほど。多様性を強調しているね。
メガネ: そして「国民学校での教育と日常生活は、知的な自由と平等、民主主義に基礎づけられていなければならない」と謳っている。
ヒゲ: 思想を感じさせるね。
メガネ: 教育基本法が改変された結果、日本の教育はどうなったか。映画はその実態を生々しく描いている。
ヒゲ: というと?
メガネ: 教科書の検定だよ。主に歴史教科書のね。
ヒゲ: 国は責任を放棄していながら、口だけは出すんだ。
メガネ: 慰安婦問題など、日本の戦争責任を扱った個所が軒並みチェックされた。
ヒゲ: いわゆる自虐史観に対する攻撃だね。愛国に反するというわけだ。
メガネ: 教科書会社は修正を余儀なくされた。
ヒゲ: 戦争責任はきちんと総括しないと。そうでないと、ロシアのウクライナへの侵略を批判できない。
メガネ:ロシアの行為は、 満州へ侵攻した日本の姿そのままだからね。
メガネ: 教科書検定だけじゃなくて、中学校の授業で日本の戦争責任を取り上げた教師(平井美津子さん)や、慰安婦問題でジェンダーを論じようとした大学教師(牟田和恵さん)が、どのような攻撃を受けたかも、詳細に語られている。
ヒゲ: 日本の社会が、平和からどんどん遠ざかっているような気がするね。
2022年6月22日 於いてヒューマントラストシネマ有楽町
2022年日本映画
監督:斉加尚代
製作:澤田隆三、奥田信幸
ナレーター:井浦新
撮影:北川哲也
編集:新子博行
2022年7月13日 ワーニャじいさん