エルデネ・ゾー寺院
ヒゲ:カラコルムでは、あとチベット仏教の寺院に行ったの?
メガネ:そう。エルデネ・ゾー寺院。白い仏塔と外壁に囲まれていて、3つの大きな寺院などいくつもの建物があった。420m四方というから、寺域はかなりの広さだよ。

白い仏塔と外壁に囲まれる Photo by Yukio Morinaga

寺域内の大きな寺院

ヒゲ:東大寺や興福寺の感じかな。
メガネ:かつてはここに62の寺院と500棟の建物があったらしい。1万人の僧侶が修行していたとか。
ヒゲ:壮大な規模だなぁ。いつの時代?
メガネ:完成したのは1586年。でも、社会主義政権下で宗教は弾圧されて、1930年代に多くの寺院が破壊されたらしい。
ヒゲ:かろうじて残ったのが、いまの姿なのかな。
メガネ:そうだね。若い僧侶が修行している寺院もあったよ。
ヒゲ:チベット仏教の知識なんてないなぁ。
メガネ:ボクも同じ。でも、日本のお寺とは雰囲気がずいぶん違うという印象だよ。
ヒゲ:と、いうと?
メガネ: 壁画なども残ってるんだけど、鮮やかで、より現世的な感じかな。仏の表情もそう。
ヒゲ:密教的要素が強いんだろうか?
メガネ:勉強しなきゃね。

壁画の説明を受ける ガイドはアルバイトの大学生 Photo by Yukio Morinaga

仏像は現世的? Photo by Yukio Morinaga

 

憂愁な馬頭琴の響き
メガネ:もうひとつカラコルムで印象的だったのは、夕食のあとで聴いた馬頭琴室内オーケストラだよ。

ヒゲ:馬頭琴?
メガネ:モンゴル特有の弦楽器で、共鳴部分が馬の頭に似ているからそんな名前がついた。弦は2本。
ヒゲ:オーケストラというと、他の楽器もあるの?
メガネ:それは写真を見てもらいたい。有名なホーミーも聴くことができた。

馬頭琴室内オーケストラ

ヒゲ:楽器構成からいっても、西洋のオーケストラとは違う響きなんだろうね。
メガネ:もちろん。日本の雅楽や三味線・尺八とも違う。アラブやイランの音楽とも異なっていて、モンゴル独特の響きだよ。馬頭琴が典型で、大変メロディアス。憂愁の感、深かった。
ヒゲ:憂愁?
メガネ:遊牧にそのみなもとがあるのかも。移動は家族単位で、大草原のなかで孤立しているからね。
ヒゲ:なるほど。
メガネ:でも、どこか風にそよぐ草の香がして、大草原を駆ける馬の蹄の音も聴くことができた。
ヒゲ:ホーミーという言葉は聞いたことあるよ。
メガネ:これは不思議な響きでね。地獄からのような低音と、小鳥の鳴き声に近い高音が、ひとりの奏者から同時に発声される。
ヒゲ:ふーん。一度聴いてみたいものだ。
メガネ:さらに、少女が曲芸のような技を見せてくれた。

伝統的な曲芸「コントーション」

ヒゲ:演奏会に曲芸?
メガネ:ボクたちも驚いたけど、これもモンゴルに伝統的な「コントーション」というものらしい。皇帝や貴族の宮廷でも演じられていたとか。
ヒゲ:うーん、モンゴルという国の文化は面白いねぇ。

日本兵が建てたオペラ劇場
メガネ:ウランバートルのチンギス・ハーン博物館は、駆け足だったし、ここは再訪して時間をかけて見てみたい。で、国立オペラ・バレエ劇場の話を少し。

スフバートル広場に面した国立オペラ・バレエ劇場 Photo by Yukio Morinaga

ヒゲ:ここでは何を観たの?
メガネ:残念ながら公演はやってなかった。でも、ガイドのMさんのお陰で、劇場内部を案内してもらった。Mさんはモンゴル文化庁の職員でもあるのでね。
ヒゲ:それは幸運だった。
メガネ:司馬さんは、この劇場を正視することを避けている。
ヒゲ:なんで?
メガネ:戦後ソ連に抑留された日本人の捕虜がつくった劇場だから。モンゴルはソ連と一体の関係にあったからね。
ヒゲ:司馬さんは、敗戦の年まで満州に配属されていたんだね、戦車部隊員として。
メガネ:そう。彼もシベリアへ送られる可能性があった。
ヒゲ:それで、劇場の前を通るにも忍びない、というわけか。
メガネ:司馬さんの『モンゴル紀行』によると、モンゴルに連れてこられた日本兵は1万3847人、抑留中そのうちの1割強が亡くなったという。
ヒゲ:うーん。
メガネ:ボクはその話を読んで、逆に是非とも見たいと思っていた。
ヒゲ:もう古い建物なんだろう?
メガネ:確かに。1951年に開場したのかな。
ヒゲ:そんなに古いのにまだ現役なんだ。日本兵捕虜が力をこめてつくったんだね。
メガネ:500席ばかりの小さな劇場だけど、内装にも凝っていて、しっかりしたつくりだった。天井など丸みを帯びていて、結構豪華だよ。設計はドイツ人だというけど、やはりロシア的な感じがした。

ロシア的雰囲気の劇場 Photo by Yukio Morinaga

オーケストラピットは60席 Photo by Yukio Morinaga

ヒゲ:500席だと大きなオペラは上演できないね。
メガネ:そうだね。オーケストラボックスは60席くらいというから、ワーグナーなんかは無理かな。
ヒゲ:それでも、そんな古くからオペラ専用の劇場があるなんて、やはりソ連の影響だね。
メガネ:壁には昔からの歌手の肖像がずらりと並んでいて、自国のオペラへの誇りのようなものが感じられた。ここでオペラを体験したかったなぁ。

モンゴルの歌手の肖像がずらり Photo by Yukio Morinaga

 

国際交流締めくくりの晩餐会
メガネ:モンゴルでの最後の晩餐はウランバートルのホテルにて。モンゴル写真家協会の人、ジャーナリストなど、4名のモンゴルの人も加わった。他に高校生が3人。
ヒゲ:高校生?
メガネ:彼らはこの8月に北海道の東川町に行く予定らしい。
ヒゲ:それはなんで?
メガネ:東川町は外国との交流に積極的で、写真を通してモンゴルとの交流を深めている。3人の高校生は写真のコンテストで優秀な成績をおさめたそうだよ。それで、招待された。
ヒゲ:そうなんだ。知らないところで大事な国際交流が行われているんだね。
メガネ:ささやかだけど、こんな民間の交流こそが平和の礎になるんだと思う。ボクたちの「モンゴルの青空に凧を揚げる」プロジェクトもね。

高校生も交えて最後の晩餐 Photo by Yukio Morinaga

2024年8月6日 ワーニャじいさん