
ヒゲ:今年の夏は暑いね。池のカモもうんざりしてるよ。
メガネ:この公園の樹陰はボクの夏の書斎なんだけど、今年はいつ来ても空いてるよ。
ヒゲ:そうだろう。こんなに暑くては、公園まで足を運ぶ人は少ないよ。
メガネ:確かに。樹陰のベンチで時間を過ごす人は、歳を重ねた人が多いからね。
ヒゲ:日本の季節から、春と秋が消えるかも知れないといわれてるね。
メガネ:亜熱帯になったということか。
ヒゲ:温暖化の勢いが止まることがない。
メガネ:ところで、夏はいつものように、戦争にまつわる記事や番組が多いね。
ヒゲ:とりわけ今年は敗戦後80年だからな。
メガネ:何か特徴的な情報はあったかな。
ヒゲ:映画『日本のいちばん長い日』が放映されたり、ポツダム宣言をめぐるドラマ仕立ての番組もあったりしたけど、オレはどうにもスッキリしない思いがしたよ。
メガネ:それはどういうこと。
ヒゲ:昭和天皇が、いかにも平和の象徴のように取り上げられてるからかな。
メガネ:でも、軍部の反対を押し切ってポツダム宣言を受諾したのには、天皇の力があったのでは?
ヒゲ:それは認める。けど、降伏はいくらなんでも遅すぎたよ。
ヒゲ:1945年に入ってからの戦死者の数は約200万人といわれている。
メガネ:えー! アジア太平洋戦争の戦死者数は約310万人のようだから、その3分の2が45年に亡くなったのか。
ヒゲ:そうだよ。負けると分かった戦争を、早期に止められなかった。少なくとも44年に降伏していれば、東京空襲も沖縄戦も、広島と長崎への原爆投下もなかった。
メガネ:降伏の機会はなかったのかな。
ヒゲ:そんなことはない。43年12月1日には「カイロ宣言」が出されて、日本は降伏を迫られている。チャーチル、ルーズベルト、蒋介石が中心。
メガネ:内容は?
ヒゲ:基本的に「ポツダム宣言」と同じで、無条件降伏を迫り、満州、台湾、朝鮮などの放棄という条項もある。
メガネ:日本は無視したわけか。
ヒゲ:そう、「ポツダム宣言」を最初は無視したように。
ヒゲ:42年6月にはミッドウェイ海戦で負け、43年2月にはガダルカナル島を撤退している。「カイロ宣言」が出された時点で、もう日本は勝つ見込みを無くしていた。
メガネ:そして、44年7月にはサイパン陥落。
ヒゲ:そう、本土がアメリカの爆撃圏に入ってしまった。東條英機内閣が倒れたのも7月。戦争を終える一番の好機だったと思う。
メガネ:この時に降伏していれば、200万人の命が救われたのに! 敗戦必至の状況を目前にして、なぜ日本は降伏しなかったんだろう。
ヒゲ:国体護持にこだわったことは、大きな理由のひとつだよ。
メガネ:負けるに決まっている戦争を継続すれば、多くの無辜の民の血が流れる。指導者には、こんな簡単なことへの想像力が欠けていたことになる。
ヒゲ:権力者は、人民を守ることより、権力を守ることこそが大事というわけだ。
メガネ:そこでキミは、平和主義者の天皇のことを考えるわけだ。
ヒゲ:そう、戦争を止める力があった天皇ゆえ、44年の7月にこそ、その力を発揮してほしかった。
メガネ:戦後マッカーサーは、その天皇の力を利用して、占領政策を成功に導いた。
ヒゲ:オレは必ずしもその見解には同意しないよ。
メガネ:というと?
ヒゲ:まったく新しい体制をつくるいい機会を逸したと思う。オレはその新しい体制を夢想するだけだけどね。
2025年9月1日 ワーニャじいさん



