おいしい本が読みたい●第一話 冒険小説はお好き?
通説によれば、十六世紀のマゼランが企てた世界周航により、(西洋近代人にとって)世界はそれまでの平面から丸く閉じた球体となった。しかし、閉じたのはあくまで東西の横ラインであって、南北の果てには、いぜんとして厳寒の異界がはてしない空間をひろげていた。
とすれば、想像力を自由に行使できる、この南端・北端を物語の舞台としたくなるのも自然だろう。人呼んで「極地小説」(知ってるのはわたしだけだが)。南極・北極が踏査され、ひとまず縦のラインが閉じるのは、十九世紀も中葉以降のことで、それまでこの「極地小説」は大手を振るってまかり通っていた。いい時代だった。
ところで、衛星写真を利用した詳細きわまる大地図ができて、昨今では「極地小説」も出る幕がないのではないかと懸念されるところだが、どっこい大衆冒険小説のなかでは、まだまだ健在なのだ。その最新版がここにご紹介する『アイス・ステーション』(マシュー・ライリー作)である。
米の南極観測基地のさらに千メートル下の氷塊のなかに、奇怪な飛行物体らしき異物が発見される。地球外文明のものか、かつて存在したかもしれない超古代の先進文明の遺物か、ともかく調査に赴く人々はことごとく惨殺される。あたかも何かに守られているかのように。そして、軍事的覇権をもたらしてくれそうなこの異物をめぐって、英米仏の争奪戦がはじまる…
作者の描写力にはちょっと疑問符がつく。冒頭近くの百ページに及ぶ戦闘シーンも冗長といえば確かにそう。けれども、色物抜きのスリルを楽しみたい人には満足してもらえるだけの材料がそろっていると思う。冒険小説よ永遠なれ!
むさしまる



