メガネ: 残暑とはいえ、いつまでも暑いねぇ。でも、ここ水元公園へ来ると、ホッとするよ。水が気持ちを落ち着けてくれるのかな。
ヒゲ: そう、水辺の木陰は最高だよ。ここは、オレの夏の書斎なんだ。今日みたいに風があると、何時間でもここで本を読む。自然のなかでの読書ほど楽しいことはないよ。
メガネ: それはなんとも羨ましい。あっ、カモがいるよ。
ヒゲ: カルガモだね。北の国へ渡りそこねたんだろうけど、この暑さによく耐えてるよなぁ。
メガネ: 渡りは数千キロの旅だよ。ここのカモはものぐさなのかな。それとも柔軟性があるのか。
ヒゲ: ここにいるカルガモは数羽だよ。寂しそうだけど、オレは彼らに共感を覚える。
メガネ: キミは群れるのが嫌いだからね。同窓会など、ほとんど出たことないらしいし。
ヒゲ: それはともかく、夏には戦争に関する番組が多いね。
メガネ: 今年は戦後75年だから、とりわけ多かった気がするよ。
ヒゲ: なかでも、戦後補償をテーマにしたNHKの番組には、教えられることが多かったよ。
メガネ: 戦後補償?
ヒゲ: そう、先の戦争では、80万人の民間人が犠牲になったという。その遺族の人たちや障害を負った人たちが、何度も国家補償を国に求めてきたんだ。でもすべて却下されてきた。戦争被害は、国民が等しく「受忍」すべきものだ、とね。
メガネ: でもおかしいじゃないか、軍人には恩給とか遺族年金があるよ。
ヒゲ: 彼らは国と雇用関係にあったから、というのが政府の論理なんだ。現在まで60兆円もの大金が投じられている。
メガネ: 戦争は国が始めたんだよ。その被害は、軍人も一般国民も、差はないよ。
ヒゲ: そのとおりだよ。戦勝国のアメリカやイギリス、フランスはいうまでもなく、敗戦国のドイツ、イタリアも、国民平等に補償している。
メガネ: じゃあ、どうして日本だけ軍人にのみ補償しているんだ?
ヒゲ: さらに驚くべきは、戦犯の遺族にも年金が支払われている。最高額はなんと東條英機! いまの金額にして1000万円だそうだ。
メガネ: えー!
ヒゲ: 学徒出陣の際の壮行会の映像も流されていた。戦闘服を着た何万人もの学生を前に、東條が甲高い声で天皇陛下万歳を三唱している。
メガネ: 開戦時の総理大臣・陸軍大臣として、戦争を強引に推し進めたのは東條英機だよ。
ヒゲ: 初代林家三平の奥さん、海老名香葉子さんも出ていたよ。彼女は、両親はじめ家族6人を3月10日の東京空襲で亡くしている。まったくの孤児になったんだね。その彼女には補償はない。
メガネ: いったいどうなっている、この国は!
ヒゲ: 戦後、厚生省には、元陸海軍の士官が多く入省したんだそうだ。彼らが軍人・軍属の恩給支給に多大の貢献をした。
メガネ: なんだ、いまの政治そのままじゃないか。
ヒゲ: そのとおり。この国の政治家や官僚は、自分や周囲の利益しか考えていない。「Go Toトラベル」を強引に押し進めたのは、観光業界と関わりの深い菅官房長官だしね。全国民の福祉への視点なんてないよ。
メガネ: キミの話を聞いていると、戦争はまだ終わっていないという気がするよ。日本の政治の腐敗も根が深い。背筋が寒くなるなぁ。

2020年8月15日放送
(2020年8月20日再放送)
NHKスペシャル 忘れられた戦後補償

2020年8月26日 ワーニャじいさん