〈食料・身体性・環境セミナー2〉 食の現状・農の未来

パネリスト:安田節子、植木敬子、片柳義春
司会:北沢方邦
会場:北沢タウンホール

経済学や生産者の視点を交えて提起するシンポジウム「食の現状・農の未来」(主催は知と文明のフォーラム)が6月、東京で開催された。

集会ではパネリストに安田節子さん(食政策センター・ビジョン21)、植田敬子さん(日本女子大学教授・ミクロ経済学専攻)、片柳義春さん(参加型農場・なないろ畑農場運営)の三人を迎え、北沢方邦さん(知と文明のフォーラム代表・構造人類学専攻)が司会を務めた。

安田さんは「60兆の細胞からなる私たちの身体は私たちが食べたものからできている」と語り、農と食のあり方の激変による健康への深刻な影響を指摘した。日本では1981年からがんが死亡原因の1位になった。「豆腐などに使われたAF2という発ガン性の強い殺菌剤が、日本でのみ9年間も許可された。この例が典型だが、多くの添加物が60年以降に認可され、加工食品が工場で大量生産された。農薬・化学肥料を多投する近代農法もこの時期に始まり、畜産業の過密飼いと続いた」と振り返った。加えてWTOによる農産物自由化圧力などグローバルな市場競争による弊害を述べ「食料の国内自給は可能。農薬、化学肥料、GM(遺伝子組み換え)食品の使用を止め、伝統の種を守ること。これは今、日本だけでなく世界中で緊急に必要な最重要の政治的課題」と主張した。

植田さんは経済学の観点から有機農業とCSAの意義を説いた。「米国も日本も、一人あたりの所得は年々上がったが、幸福度は米国では67年以降から逆に低下し、日本も57年以来低いままだ」と図を示して語った。分析によれば、その原因は健康不安や人とのきずなの崩壊だという。「こうした深刻な事実に経済学者は気付き、経済成長一辺倒の従来の制度を考え直すべきとの認識が高まった」と植田さんは前置きした。こうした観点から「欧米で急速に広がるCommunity Supported Agriculture(CSA)に注目した」と語った。CSAは会員(消費者)が年間を通じて支払額を決め、農作業や運営にも参加する。「生産者は生活の心配から解放され農作業に専念でき、消費者は近場の新鮮で健康に良い作物を手にし、人とのきずなも回復出来る」と述べた。また、有機農業には、人だけでなくまわりの環境も健康にするメリットもある。なぜ日本政府は十分な補助金をださないのか」と疑問を呈した。

植田さんが推奨し、安田さんが会員というCSAスタイルの農場を神奈川県綾瀬市で営む片柳さん。「お金の流れを変えたいと地域通貨運動に関わったが、地域通貨と農作業の連動が効果的とわかり、住宅街の空き地を借りて農業を始めた。生協の不祥事をきっかけに『ウソでない、安全な野菜が欲しい』という女性たちと出会い、一人では必要量の栽培が追いつかず、一緒に働いてもらった。クチコミで参加が拡がり、借りる畑も増えていった」と経緯を述べた。市民運動の延長から農場経営者になった片柳さんだが「農場を核にエコ時代のモデルになるようなコミュニティをつくりたい」と抱負を語った。

1929年生まれという北沢さんは、子ども時代の食生活の思い出も交えて「コメもイモも多様な品種と製法があり、味が楽しめた。それを駆逐したのはまず戦争による食糧難だった。多収穫だが味の悪い品種のイモ、コメに統合されていった」と語り「60年代以降からは、経済合理主義を最優先する近代農法の下で、長く日本の伝統農法であった有機農業も地方の風土にあった品種も消えていった。本来、食とはその国の文明の基となるものだが、それが壊された」と指摘した。そして「エコロジーによる農山村コミュニティの再建など、エコ・ソリューション(解決策)による文明の転換が必要だ。そのとき、農はその要の位置を占める」とまとめた。 (大束愛子、「社会新報」2009年8月5日(第4551号)に掲載)