歌と踊りとライアーと――手づくりコンサートの試み

奏者がライアーで『雪の降る街を』弾きはじめてしばらくすると、聴衆のどこからともなく歌声が聴こえてきた。ひとりではなく、何人かの歌声。そして、さらに歌声は広がった。それはとても静かで、歌詞もはっきりとは聞きとれない。ライアーの音を妨げることもなく、むしろ、ライアーの響きに調和して、会場は暖かい空気に包まれた。弾き終わった奏者は、嬉しそうに、ともに歌ってくれたことを感謝した。
12月21日、老人ホームでのクリスマス・コンサートの出来事である。聴衆は、居住の皆さん30人とゲスト20人、合わせて50人ばかり。続いて演奏された民謡と讃美歌にも、静かな歌声が響き、それは歌による第3部まで引き継がれた。後方で聴いていた私は、この光景にいたく心を打たれた。これは、音楽の持っている力そのものではないか、とも思ったのだった。
ライアーは、膝の上にのせて弾く、小さな竪琴である。様々な大きさがあるが、弦の数は数十本。小さくて優しい音が出る。独特な教育法を生み出したルドルフ・シュタイナー(1861〜1925)の影響を受けて、治療教育の目的で開発された。たとえば、病に冒された人のために弾く。それゆえ、奏でられる音は大きくはない。私は、50人もの人が入る会場で、はたしてライアーが演奏できるのかと、大きな不安を抱いていた。
マイクは使うしかない。しかしそれで、ライアーの持っている、優しい癒しの音が阻害されないだろうか、と心配したのだった。ライアーの響きは、マイクを通してでも、その本質を損なうことはなかった。ライアーは、シュタイナーの実利的な試みを超えて、人々の心に届いたのだった。
第1部の、加藤裕美子の歌と踊りによる『花さき山』で、会場は驚きに包まれた。着物姿の加藤は、山姥と子どもを巧みに歌い分けて、斎藤隆介作の心温まる民話風物語を熱演した。十数分間の短い曲のなかには、「善いことをすれば花が咲く」という明快なテーマが、緻密な技法で織りこまれている。作曲の松本民之助は、東京藝大で坂本龍一を教えたそうである。
歌詞をスクリーンに映し出したのもいい工夫であった。響きを重視するベルカント唱法で日本語を歌うと、どうしても聴きとりにくさが生じる。『花さき山』は物語であり、筋の展開を把握することはとても大事だ。そして、加藤の熱演で会場が異世界の雰囲気に包まれたところに、珍しい楽器ライアーが登場したのだった。
ライアー独奏のあとの、第3部「歌とピアノによるクリスマスソング」、第4部「みんなで歌いましょう」も、聴衆の皆さんがともに歌い、とてもいい時間であった。大劇場で、有名な音楽家の舞台を鑑賞することは大変刺激的である。けれども、小さな空間での手づくりの音楽会も、心がこもっていて、内容も充実していれば、けっしてその大舞台に引けはとらない、と実感した。
2025年12月21日 於いてオーシャンプロムナード湘南
Ⅰ 歌芝居 花さき山(斉藤隆介作、松本民之助作曲)
歌と踊り:加藤裕美子
振付:藤間玉彩花
Ⅱ 冬の歌をライアー(竪琴)の⾳⾊で ライアー:森 杣子
雪の降る街を(中田喜直作曲)/マリアはいばらの森をあゆみ(ドイツ民謡)/聖母の御子(カタロニア民謡)/トロイカ(ロシア民謡)/いつくしみ深き(讃美歌)/天なる神には(讃美歌)/さやかに星はきらめき(A.C.アダム作曲)
Ⅲ 歌とピアノで、クリスマスソングを 歌:加藤裕美子、ピアノ:森 杣子
もみの木(ドイツ民謡)/牧びと羊を(讃美歌)/もろびとこぞりて(G.F.ハンデル作曲)/オー・ホーリー・ナイト(A.C.アダム作曲)
Ⅳみんなで一緒に歌いましょう
きよしこの夜(F.X.グルーバー作曲)
2025年12月25日 j.mosa



