心に染み入る天上の響き――リラ・コスモス「夏のライアーコンサート」

じつに4カ月ぶりにライブの演奏会に出かけた。聴衆は10人という小さな音楽会だったが、美しさが凝縮したかのような、心洗われる集いであった。10人しか聴くことができなかったのはなんとも残念。これもコロナ禍の影響である。会場は旧貴族院議員の木内氏の別宅とはいえ、通常なら50人は収容できると思われる。客席の間隔をとって感染予防をした結果である。入場時には手を消毒し、体温をはかり、連絡先も記入した。演奏者、観客ともマスク。ほぼ完璧な感染症対策であった。

ライアーという小型のハープはほとんど知られていない。ルドルフ・シュタイナー(1861―1925)が治療教育のために使おうとした楽器で、本来は演奏会をするものではなかった。音も大きくはないゆえ、会場の規模も制約される。小さな空間で、耳をそば立たせて聴くことになる。それは、音楽を聴く、もっとも根源的な姿勢かもしれない。ライアーの、密かに梢をそよがすかのようなピュアな響きが、聴く人それぞれの心に、静かに訴えかける。

今回の演奏会では3種類のライアーが使用されている。演奏会用では弦は53本らしいが、大きさによって音の高さに差が出る。材料の木の種類によっても音質が異なるのか。私にはその細かな差異を聴き分けることはできないけれど、さまざまな形のライアーがあることは、見ているだけで楽しいものだ。

演目は、日本の童謡からアイルランド民謡、ヘンデルの小品、現代作曲家の作品など多彩。そのほとんどはライアー向けの作品ではないので、演奏のデュオグループ、リラ・コスモスがアレンジしている。そして、メンバーの平川絵理子さんと発地美枝子さんのオリジナル作品も含まれている。選曲といい、朗読を含むプログラムの組み立てといい、夏の森のなかで聴くにふさわしいものであった。会場の木内ギャラリーは自然に囲まれている。

ライアーを膝にのせて、数十本の弦を操るには、よほどの技量が必要だと思われる。おふたりの腕は確かで、ふたつの楽器から奏でられる音色は、限りなく優しい。深く心に染み入るゆえに、シュタイナーが治療に用いようとした意図もよく分かる。そしてこの楽器の音色を、より多くの人々に聴いてもらうべく努力されているおふたりの試みは、まことに貴重である。この天上の響きに、ひとりでも多くの人々が接しられることを心より祈りたい。

2020年7月19日 於いて木内ギャラリー
プログラム
発地美枝子:星のこもりうた
中山晋平:しゃぼん玉
宮沢賢治:星めぐりの歌(朗読・森杣子)
ヘンデル:インベンション
ヘンデル:私を泣かせてください
ヴァヴィロフ:アヴェマリア(カッチーニ)
F.タレガ:アルハンブラの思い出
黒石ひとみ:薔薇のある風景
平川絵里子:世界
下総皖一・井上武士・文部省唱歌:夏メドレー(たなばたさま・海・うみ)(グロッケン・森杣子)
デボラ・ヘンソン・コナント:ナイチンゲール
アイルランド民謡:とねりこの森(朗読・森杣子)

演奏:リラ・コスモス(平川絵理子・発地美枝子)

2020年7月30日 j.mosa