仲間と観る映画もいいものだ

映画はひとりで観ることが多いのですが、昨日は映画好きの友人ふたりと一緒に鑑賞しました。台湾映画の名作、『非情城市』と『クーリンチェ少年殺人事件』です。評判の高い映画ながら、私は2作品とも観のがしていました。24日の1日だけ同時上映があるとN本さんから聞き、すぐチケットを買いました。そしてむさしまるさんに情報を伝えたところ、彼も迷うことなく購入したというわけです。ふたりとも、上映時間7時間という長さに恐れをいだきながら、ではありました。

仲間と映画を観る楽しみは、終映後のおしゃべりにあります。ああでもない、こうでもないと、作品について無責任にダベる時間がじつに楽しい。つまらない作品だと、いや、結構面白い作品でも、だいたいすぐに話題は拡散するものです。昨日の2作品はそういうわけにはいきません。語るべき内容が、あまりにも多いのです。これは、傑作である必須の条件でもあります。

まるでドキュメンタリーを観ているような臨場感。台湾の現代史を学ぶ糸口に満ちている。なによりも陰影深い映像が素晴らしい。2作品に共通する要素は多くあります。そうそう、音に対する感性の豊かさも。東京国立近代美術館フィルムセンター大ホールの音響は、嬉しいことに、まことにいいのです。

共通点は多いながら、この2作品は、ある意味で対照的な映画だと思いました。『非情城市』は、数多いエピソードが、じつに緻密に構築されている。音楽もそうで、ユーチューブから流れるメロディを聴くだけで(ユーチューブにアップされています)、映画のシーンが鮮やかに目に浮かびます。『クーリンチェ~』は構築性をあえて無視することで、少年の思いもかけない殺人に、確かなリアリティを与えています。衝撃度は並ではありません。

『非情城市』のカットのひとつひとつは、まるで絵のように美しい。小津安二郎の影響を喧伝されるはずです。ヤクザの抗争という暴力場面が多いにもかかわらずです。たとえば、九?という山上の街に女主人公が登っていくシーン。急坂であるため輿に乗り、主人公のトニー・レオンがあとに従っています。背景には遠く海が広がる。そして、懐かしく、美しく、また強靭な音楽。この場面で、私はもうこの映画の虜になりました。

戦争が終わって日本人が去ったと思ったら、今度は本土から国民党がやってきた。台湾は50年間日本の支配下にあったわけですから、台湾の人たち(本省人)は中国本土の人たち(外省人)を相手に戦ったわけです。同じ漢民族でありながら。この矛盾は、戦後の台湾社会に深い影を落とします。1947年には、国民党(外省人)が本省人を弾圧・虐殺するという「二・二八事件」が起こります。本省人である主人公の一家は、この悲劇的な歴史に翻弄されることになります。

誰かがこの映画を「台湾版ゴッドファーザー」と評しました。確かに家長を中心としたヤクザ一家の物語でもあり、面白さにおいて言いえて妙。しかし、抒情性、歴史性、そして芸術性、どれをとっても、はるかに上質の映画であることは間違いありません。

もうひとつの傑作『クーリンチェ少年殺人事件』。これについては、一緒に鑑賞したむさしまるさんに語ってもらうことにいたしましょう。

2017年9月25日 森淳