知と文明のフォーラムの運営委員、徳武智栄さんが、昨年12月24日に逝去されました。享年72歳。謹んで哀悼の意を表します。徳武さんは、フォーラム発足以来のメンバーで、長年会計を担当され、会の運営を側面から支えてくださいました。会が主催するセミナーやコンサートは、すべて会計が関わっているゆえに、目には見えない多くの仕事を担っていただきました。感謝のほかありません。

一方で、フォーラムのメンバーが出版されたいくつかの著作物に深く関わられたことを、ここにお伝えしたいと思います。そのひとつは、片岡みい子さんが翻訳された絵本『小さなお城』と『ねこのいえ』(ともに平凡社刊、それぞれ2007・2011年刊行)です。これは『3びきのくま』の挿絵で有名な画家、ユーリー・ワスネツォフに魅せられた徳武さんの企画・編集による絵本です。徳武さん、片岡さんとともに、材料探しに何度も上野の国際子ども図書館に通ったことを、懐かしく思い出します。おふたりがすでに亡いとはいまだに信じられず、無念というほかありません。

青木やよひ先生の最後の著書『ベートーヴェンの生涯』(2009年平凡社刊)は、病の進行に抗うかのように先生が執筆された渾身の作品ですが、巻末の年表は徳武さんの手になるものです。ベートーヴェンの生活をも盛り込んだ独特の年表で、青木先生もいたく満足されました。コピーライトを付すようにとの進言に、控えめな徳武さんは遠慮されました。

徳武さんの芸術への深い理解と愛情は、知と文明のフォーラムの目指すものと間違いなく交差していました。とりわけ、日本の美術と古典芸能への愛着が際立っていました。2016年の『若冲展』には、炎天下の上野公園で3時間も並んだことでした。また、能や文楽もともに楽しませてもらいました。冒頭に掲載した花瓶は徳武さんの作品です。優しく、静かで、そのくせ謎めいた佇まいは、彼女の知られざる素顔だと思います。

どうか、安らかに。

2021年1月5日 森淳