ヒゲ: あっという間に桜の季節が過ぎ去ったね。
メガネ: ここの桜はきれいだった。
ヒゲ: 桜並木もそうだけど、公園のあちこちに桜が咲いていて、思わず一句が口に出た。

春満ちて ここにも桜 あそこにも

メガネ: ん? キミの俳句をどう評価していいのやら。
ヒゲ: それはともかく、もう八重桜の季節になったね。これはこれで、どっしりと、春爛漫の感ありだね。

ヒゲ: ところで、先日テレビをつけたら、三島由紀夫の自決を扱った番組をやっていた。
メガネ: なんでいま三島なの?
ヒゲ: よく分からない。どうも2020年制作の再放送らしいけど。
メガネ: 2020年は、その事件が起きて50年目だったね。つまり、三島由紀夫没後50年。
ヒゲ: あの事件のことはよく覚えているよ。オレは社会人1年生だった。
メガネ: ボクは三島由紀夫にはそれほど関心がないんだけど、キミはそうでもない?
ヒゲ: そうだなぁ。逆の意味で関心がないことはない。
メガネ: というと?
ヒゲ: ボディビルをやって体を鍛えたり、自衛隊に体験入隊したり、楯の会をつくったり、およそオレには考えもつかないことをやっていたからなぁ。もっとも、その反動で、彼の作品はほとんど素通りしてしまった。
メガネ: それで、先日の番組で、キミは何を考えた?
ヒゲ: そうそう、そのことだよ。すごく印象に残った彼の言葉がある。

「人間は自分のためだけに生きられるほど強くはない。他者のため、社会のため、など、何か目的を持たないと生きていけない」

メガネ: うーん、何かのために生きる、ということを人間の弱さと表現したのか。
ヒゲ: そう。それを彼は「大義」と言った。そのために死ねるほどの大義と。
メガネ: で、彼の大義とは?
ヒゲ: 一言でいうと「天皇を中心とした美しい日本の文化」を守ること。
メガネ: その大義を守るため、彼は自決したの?
ヒゲ: 日本の文化を守るためには、日本人は、自らの国を自らの手で守らなくてはならない。憲法を改正しなければならない。自衛官よ、決起せよ、ということかな。
メガネ: 市ヶ谷駐屯地に参集した自衛官には、その言葉はまったく届かなかった。
ヒゲ: そうだったね。で、自分の言葉は命をかけたものだったことを証明するために、彼は自決した。

ヒゲ: オレが気になったのは、「大義」という言葉だよ。
メガネ: かなり抽象的な言葉だね。
ヒゲ: 「大義」とか「正義」とかいう言葉はどうも好きになれない。
メガネ: 危険な面もあるよね。人によって意味するところが異なる。
ヒゲ: そう。オレは、プーチンを思い浮かべていた。
メガネ: それはまた飛躍したね。
ヒゲ: そうでもないよ。プーチンの「大スラブ主義」は大義そのものじゃないか。
メガネ: 大義のためには、殺人も正当化される。
ヒゲ: 三島は全共闘に親近感を持った。それは、大義のために死ぬ覚悟があるからだと。
メガネ: なんだ、彼らの目的はまったく正反対じゃないか。
ヒゲ: 「大義のために死ぬ」ことこそ、三島の目的だったような気がする。
メガネ: 大義の恐ろしさだね。
ヒゲ: 「人間は自分のためだけに生きられるほど強くはない」。作家三島は、しかし、深い洞察力を持っていたと思う。

2022年4月8日 NHK
三島由紀夫 最後の叫び

2022年4月11日 ワーニャじいさん