メガネ:今年は暑いねぇ。
ヒゲ:水元公園も確かに暑いけど、この水辺にはいい風が吹いてるよ。
メガネ:南風だね。池の水面が波立ってる。
ヒゲ:風通しがいいから、冬はここにはいられないけど、夏は絶好の書斎になるんだよ。
メガネ:でも日曜日だというのに、人影はまばらだね。
ヒゲ:あまりに暑いので、みな家から出ないのかな。
メガネ:今日は8月6日で、広島の原爆記念日だね。
ヒゲ:そうだね。78年前のこの日も、好天で暑い日だったよう。

メガネ:一昨日、表参道で、ささやかな出版記念会があった。
ヒゲ:どんな?
メガネ:『原爆の歌』という歌集だよ。河野英子さんという人の短歌60首が英訳されている。
ヒゲ:短歌の英訳なんて珍しいね。
メガネ:カナダのビクトリア市在住の、英子さんの次女河野優三枝さんが、友人とふたりで英訳をした。
ヒゲ:タイトルからすると、広島に関係する?
メガネ:そう、英子さんの夫と次男が、8月6日に被災して亡くなっている。英子さんや優三枝さんは松江に疎開していて無事だった。

ヒゲ:で、内容は?
メガネ:ボクが感銘を受けた短歌を挙げてみよう。

広島の夜の色彩に放つりん青々と人のたましひが燃ゆ

of Hirosima
within its own night’s color
magnesium rays
blue, blue around the people
the souls, they are all burning

骨壺を抱きておればうつせみの夫とわれなり赤き花園

an urn of bones
I am embracing in
this temporal world
my husband and I exist
in a red flower garden

ヒゲ:英語のリズムが短歌に合っている。
メガネ:1年以上かけて翻訳されたようだから、試行錯誤の成果だと思う。
ヒゲ:この本は、やはりアメリカ人に読んでほしいね。アメリカではまだ56%の人が原爆を正当化しているんだから。

メガネ:出版会の当日は朗読もあって、優三枝さんが短歌を詠み、お子さん、お孫さんたちが英訳を読んだ。原爆廃絶への思いが、世代を超えて受け継がれていることを実感したよ。
ヒゲ:それはいい出版会だった。

2023年8月6日 ワーニャじいさん

原爆を開発した科学者たちのリーダー、オッペンハイマー博士をタイトルロールにしたオペラがあります。ジョン・アダムス作曲の『ドクター・アトミック』で、機会があればぜひご覧ください。

楽しい映画と美しいオペラ―その37 – 一般財団法人 知と文明のフォーラム (goo.ne.jp)