メガネ: 12月に入って急に寒くなったね。
ヒゲ: ホントに。こんなに寒いのにキミはここまでよく出かけてくるね。しかも自転車で。
メガネ: まあ、健康にもいいしね。ボクにとって自転車は、生活にリズムを与えてくれる、いい友だちだよ。
ヒゲ: 結構高そうな自転車だねぇ。
メガネ: ロードバイクだけど、これは台湾製の安物だよ。江戸川を走っているバイクなんて、イタリア製、フランス製、アメリカ製など百花繚乱。
ヒゲ: ママチャリとは乗り心地が違うんだろうね。
メガネ: 確かに。これに乗るとママチャリには乗れないよ。あっ、トンボが来たね。
ヒゲ: アキアカネだね。秋になって高地から降りてきたんだ。
メガネ: この赤トンボはずいぶん人懐っこいねぇ。
ヒゲ: ところで、菅政権の支持率が高止まりをしていることもあって、このところ、民意について考えているよ。
メガネ: うん、民意は民主主義の基盤だからなぁ。
ヒゲ: 最近、吉村昭さんの『ポーツマスの旗』という歴史小説を読んだんだ。
メガネ: 日露戦争の話だね。
ヒゲ: そう。その戦争の講和条約が、アメリカのポーツマスで結ばれた。日本の全権代表が小村寿太郎だったんだね。
メガネ: で、その小説と民意とはどんな関係があるの?
ヒゲ: 小村は、ホントは、全権代表などになりたくはなかった。どうやら貧乏クジを引いたんだね。
メガネ: どういうこと?
ヒゲ: 民意は、日露戦争の勝利で沸き立っていた。ロシアから金を取れ、領土を取れとね。
メガネ: 日本海海戦では大勝利だったからね。
ヒゲ: ところが満州では、ほとんど砲弾もなくなりつつあった。自滅寸前だったらしいよ。政府は一刻も早く条約を締結して、戦争を収めたかった。
メガネ: なるほど、民衆はその実態を知ることなく、勝利に酔いしれていたわけか。
ヒゲ: 講和条約では、もちろん賠償金など取れるわけはなく、辛うじて樺太(サハリン)の南半分を獲得した。樺太は、停戦後、日本が違法に全土を占領していたんだけどね。
メガネ: それで、条約締結後も、民衆は不満の声をあげた。
ヒゲ: 東京、大阪、神戸など、全国的に国民大会が開かれたらしい。日比谷公園では火つけ騒ぎもあったとか。国家的なテーマで群衆が成立したのは、このときがはじめてだと、司馬遼太郎さんも書いている。そして、この群衆が日本を誤らせたのではないか、とも。
メガネ: 問題は、民意がどのようにして形成されたか、だね。
ヒゲ: 誤った、あるいは不正確な情報がどのように流されたか。ジャーナリズムの責任の大きさはいうまでもないけど、情報を隠蔽した政府の姑息さは断罪ものだね。
メガネ: この民意形成のメカニズムは、1945年の敗戦まで続いたわけだ。
ヒゲ: いやいや、どうやら現代までも続いているんではないかと、オレはホントに危惧しているよ。

2020年12月4日 ワーニャじいさん