『ダンサーの純情』(パク・ヨンフン、2005年)は好きな映画だが、偽装結婚のために中国から韓国にやってきた娘チャン・チェミンのありきたりなサクセスストーリーで、良作とはいいかねる(本編の後に映し出される女優ムン・グニョンの踊りっぷりはイカしているが)。気になったのは、じつは娘の素性である。

「中国から韓国にやってきた少女」、この中国はどこかといえば、北東部にある吉林省の最東端にある(つまり朝鮮民主主義人民共和国の北部に隣接する)延辺朝鮮族自治州である。もともと出稼ぎが多いこの自治州だが、1992年の中国と韓国の国交樹立後はとりわけ韓国への出稼ぎが盛んになった。1990年のソウル・オリンピックによって近代化された韓国のイメージが流布したせいだとされる。貧しいチェミンの一家も先祖の故地にそんな「コリアンドリーム」を託したのだろうか?

偽装結婚という出稼ぎは、実質的に韓国人男性への性的従属を意味するケースも多かっただろう。映画のなかでは「偽装結婚摘発期間」だと称して公的係官が抜き打ち訪問するシーンがあるし、そうした状況を匂わせるエピソードもいくつかある。

そのうちのひとつ、冒頭近くに世間知らずのチェミンが「踊りが習えて月200万ウォンもらえる」店を紹介される話が出てくる。その店はもちろん風俗系で、ソウル南西部の加里峰洞(カリボンドン)にある。朝鮮族の住居が多いこの地区は、大林洞(テリムドン)とともに映画『犯罪都市』の舞台になるほど治安が悪いといわれる。チェミンに店を紹介するのは偽装結婚を仕組んだプロモーターその人だ。つまり、偽装結婚と風俗系は同根ということになる。

では、チェミンを受け止める韓国側の視線はどうか。踊りの指導者役を務める若者が港に降り立ったばかりの彼女の服装を見て思わず、「白い靴下に革靴かよ!」と蔑む場面がある。山出しのおぼこ娘、という記号らしい(このシーンでわたしは自分の中高時代を思い出した)。この記号は繰り返される。若者から正式に踊りを習う当日、けいこ場に姿を現したチェミンの服装は、上は女子中高校生が体育のときに着る白の半袖、下はやはりジャージ風のグレーの体育着。ここでも思わず絶句する、「延辺(ヨンビョン)スタイルか?」と。

視覚的にそうなら、聴覚的にもそうだ。指導者の若者は繰り返し注意する、「その北なまりを直せ」と。ピョンヤン放送を彷彿とさせる北の方言はさしずめ敵性言語か。どうも南にとって北は今もって禍々しく、「ふるさとのなまり懐かし…」とはいかないようだ。

2005年韓国映画

むさしまる